コレかなあ。とにもかくにも、僕は人生の最期にビル・エヴァンスを聴きたいんだよ。このスタンダードは題名も素晴らしい。My Foolish Heartを肯定してくれるような優しい音楽。彼らの演奏は黒くないだとか緊張感が無いだとか言われることも多いけれど、そんなことはどうでもいい。そういう人はビル・エヴァンスがマイルス・バンドにいた事を覚えているのかな?まあそれは置いておいて、若輩者の僕にとって死ぬときの風景というのは想像もつかないけれど、もしも目を閉じてから数分間の時間が許されるならば、この曲のアンサンブルに身を任せていたい。
The Beatles / In My Life
カート・コバーンが葬式で流せと言っていた曲。でも葬式じゃ自分は聴けないから死ぬ前がいいな。この曲は全編通してリンゴのドラムがとても良い。音が良いっていうのはこの曲のことだと思います。ジョージが優しく弾くイントロのギター、ジョンの綺麗なボーカル、そしてこの曲を仕上げたのはポールとのこと。誰の作曲にせよ、この時期のビートルズはバンドとしてのチームワークがあるように思えてなんだか嬉しくなる。
Some forever not for better / Some have gone and some remain
(中略)
In my life I've loved them all
という歌詞でした。
この曲に関して、僕はとても迷いながらもダニー・ハサウェイ版を推す。なんといっても彼の出す音には温かみがあるから。電子楽器のはずなのに、生ピアノよりもむしろ人間的。ただ歌詞も含めてこの曲がどういう曲かということを考え始めてしまうと、果たして死ぬ間際に聴く曲なのか自信がなくなってきますね。でもいい曲だし。日本人はそういうところがありますから。ダニー・ハサウェイの鍵盤とボーカルだけじゃなく、ベースもドラムもギターも勿論最高の音。音質とか音圧ではなく、こういう「良さ」を追求する音楽が2015年にももっと出てきてくれたらいいな。そうすると死ぬときに聴かなきゃいけない曲が増えちゃうけど。
ボウイは僕の永遠のあこがれだ。 どういう男になりたいのか?と考えると必ずデヴィッド・ボウイと矢吹ジョーに行き着くのです。そして彼の名盤ジギー・スターダストの最後の曲であるロックンロール・スーサイドは本当に圧倒される曲です。冒頭は静かなアコースティックギター、呟くように歌い始めるボウイ、そして徐々に楽器が増えていく。初めて聴いた時から、所謂「人生の走馬灯」を連想する曲だった。そもそも、ロックンロール・スーサイドという言葉に魅力があふれているんだよなあ。意味を正確に説明はできなくても、言いたいことは伝わる、そんな言葉です。でも臨終の時にスーサイドなんて曲を聴くとしたら周りにバレないようにこっそり聴かないとね。そしてロックンロールになるのです。
Led Zeppelin / Rain Song
ペイジのアルペジオにジョーンズも加わって荘厳に始まるこの曲。ツェッペリンにこんな美しいバラードがあるということを僕は最初知りませんでした。天国への階段にも匹敵する曲だと思うのですが日本では知名度がいまいちかもしれない。ライブ版およびブートにおけるこの曲は本当に凄まじい。終盤になってようやくボンゾのドラムが入り、プラントがシャウトするあの気迫を感じられたら、まさに人生の最後の華となるだろうな。死ぬ間際という意味で言うと「天国への階段」という言葉がふさわしいようにも思えますが、よく考えてみましょう。あんなの聴いたら、ギターソロ以降で完全に生き返ってしまいます。軽く20年は寿命が伸びるでしょう。
Prince / Pink Cashmere
この曲は春にヨーロッパにいる間、ずっと聴いていた。始まった1秒目から虜になってしまう。いかにも、という感じのコード進行に、細かくハイハットが刻まれるのが至上の心地よさ。少し泣きそうになりながらも、それでも穏やかに眠っていけそうな印象。まだ終わらないで、ずっと聴かせて、というこちらの思いに応えるように様々なメロディー変奏を挟みながら音楽はループしていく。プリンスはマイケル・ジャクソンと比べてよりファンクな一面を抽出されているような気もするけれど(あ、でもパープルレインとか日本でも大ヒットしたのか)、こういった曲で聴かせるボーカルもとても魅力的。中性的という言葉では表現しきれない。
Radiohead / High & Dry
これもヨーロッパでずっと聴いていた。これまでのラインナップからすると一気に若者的センスになってしまったかもしれないけれど、でも聴きたいんだもの。自分の声が嫌いで鬱になってしまう男トムヨークがDon't leave me high, don't leave me dry.と歌うのは考えさせられるなあ。眠ったあと、夢の世界で生きられるような気がする。あとこの曲はMVがパルプフィクションみたいでイイ。アメリカな雰囲気のレストランって、それだけで不思議な群像劇を予感させるいい舞台装置になる。まあこの記事とは関係ないんだけれども。話を戻すと、この曲はシンプルなアレンジがすごく心に響く。レディオヘッドらしいかというと分からないけど、名曲の一つには違いない。ちなみにこれを書いている今、僕はパルプフィクションのTシャツを着ています。関係ないんだけど。
Milies Davis / Someday My Prince Will Come
マイルスによるスタンダードナンバー。イントロではひたすらウッドベースがFの音を弾き続け、静かにミュートトランペットによるテーマが始まる。いつ聴いてもほれぼれとしてしまう素敵な曲。5日の記事にも書いたけれど、Someday My Prince Will Comeを「いつか王子様が」と訳している素晴らしい邦題の一つ。どんな人生になるのか?なったのか。王子様が来たかどうか、王子様になれたかどうか。最期の時にこの曲を聴いて、その答えは出るだろうか。答えがどちらにせよ、その人生を肯定してくれそうな優しいソロ回し。ブラシからスティックへ持ち替えて効果的にビートを変化させるドラミング。完璧だなあ。
Rolling Stones / Wild Horses
僕が初めてストーンズに惚れ込んだ曲。ブルース魂を感じるエレキギターが、アコースティックギターに乗せて優しく爪弾かれる。ミックジャガーの歌声の魅力も詰まっている。今回紹介している曲はどれもそうなんだけれど、とにかくこの曲も音がいい。ドラムは少しリズムがヨレるし、ミックもピッチは外す。けど、そういうのは本質じゃない。静かな曲なのに、魂を揺らすという表現が合うような迫力を持っている。もしこの曲を最期に聴くのだとしたら、俺は何かを成し遂げたんだぞ、俺は満足しているぞ、と言える人生だったということだと思う。
Roy Hargrove Quintet / Strousburg St Denis
この曲について語るのがこんなに難しいとは思わなかった。心から大好きな曲。とにかくメロディーが素晴らしく、とにかくベースラインが美しく、とにかくドラムの静と動の組み合わせが感動的で、とにかくピアノに迫力がある。Youtubeで検索すると最初に出てくるライブ動画はどんな人でも一度は見るべきだと思う。ロイハーグローブ自体は、滅茶苦茶にトランペットがうまいわけではないけれど、これよりも好きなジャズ曲を挙げろと言われるとそう多くは出てこない。細かなドラミングによって前へ前へ進みながらも、どこか哀愁・ノスタルジーが漂う曲展開。自分が過ごしてきた道を振り返るにはうってつけだ。
僕がこの世で一番愛するピアノ・トリオであるJ.A.Mもこの曲をカバーしているので、よろしかったらこちらも。
森は生きている / 帰り道
そろそろ日本語ボーカルの曲も。僕が所謂シティ・ポップにどハマりすることになったきっかけの曲。 コード進行だけで涙を誘うし、ゆったりと流れる時間の中にフルートやエレピの装飾がきらきらと挿入されるところも大好きです。帰り道というタイトルから、僕は少し遠出してから帰るとき、大抵この曲を聴く。ならば、人生最後に聴くのもこの曲であったら幸せだろう。人は生涯を精一杯過ごして、最期にはみんな同じところへ帰っていくのだと思っている。そんな帰り道のお供として。
椎名林檎 / 茜さす 帰路照らされど
すごく迷ったけれど、椎名林檎も入れておくことにする。どちらかといえば彼女の音楽は生に執着している印象で、死というイメージはない。それでも、幸せに死ぬということが、良い思い出に包まれて眠るという側面もあるならば、この人の曲を外すことはできないだろう。あくまで個人的な選曲だし。『ヘッドホンを耳に当てる アイルランドの少女が歌う』という歌詞にビリビリっとやられてしまったのは中学生の時だった。亀田誠治のベースもこの時からすでに冴えまくっているし。でもいま聴いていて気付いてしまったけれど、『明日を迎えていたい』とか歌っちゃってるなあ。やっぱりこれ不適切だったかなあ。でも好きな曲だしなあ。
荒井由実 / ひこうき雲
数年前、ジブリによる映画「風立ちぬ」のテーマソングに選ばれたことで再び世に出回った曲。僕は以前からユーミンの大ファンであったけれど、この曲に死のイメージを感じたことはなかった。多分あまりちゃんと聴いていなかったのだろう。でもあの映画によってこの曲の詩が脚光を浴びた。「あの娘の命は ひこうき雲」。あれからずっと考えているけれど、この曲の本当の意味がどこにあるのか未だにはっきりと掴めない。しかし本当に「風立ちぬ」のために書かれたような曲だ。あの映画・この曲を聴いて、僕は死を少しだけ肯定的に捉えられるようになったと思う。堀辰雄の原作とはまた違うあの雰囲気。悲しいけれど、悲しむだけではダメだ。それはそれとして、庵野秀明は声優なんかやってる暇があればエヴァを完結させろと思っていたけどあの時期は鬱だったのね。ひどいこと言ってごめんね。
J.A.M / MINT
シュトラスブルグ・セント・デニスのところでもすでに紹介してしまったけれど、僕が大好きなピアノ・トリオ。SOIL&"PIMP"SESSIONSという日本のジャズバンドのリズム隊によるバンドだ。いかにも日本的な、心に琴線をストレートに狙ってきているような曲。綺麗な曲と思いきやそこはソイルのメンバー、中盤の息を呑むような展開、そしてブレイク。そして感情を爆発させたようなドラムを伴ってテーマに戻り、長いラストノートによる締め。初めて聴いた時から、人の一生のようだと思っていた。ボーカルのない曲というのは、このように「感情の塊」をぶつけられた時に、受け取り側が自由にそれを解釈できるところが好きだ。もし自分が死んで誰かが悲しんでくれたとしたら、この曲を聴かせたい。どちらかといえば、そういう曲なのかもしれない。