深夜ファミレス記録

もう深夜にファミレスにも行かなくなってしまったけど、上野か新宿で夜中まで飲んだあとに勢いで書く日記。

「ライフ・イズ・ビューティフル」と「善き人のためのソナタ」の感動

僕は映画に疎い人間で、名画座なんて一度試しに入ってみたきりだし、タランティーノで一番好きな映画は?と聞かれてもパルプフィクションと答え、マーベルの映画が公開されればとりあえず全部面白いと言いながら有りがたく享受し、押井守のくどくどしたセリフ回しに素直に憧れてしまうタイプの人間です。

かように寂しい映画鑑賞歴ではありますが、それでも衝撃を受けた映画というのは有りまして、それが表題の「ライフ・イズ・ビューティフル」と「善き人のためのソナタ」です。この2つの作品について考えているとどうにも共通するものが多いことに気付かされたので記事を書いてみようと思う。

以下、ネタバレを含みます。上記2作を未鑑賞の方のなかで、「これから初鑑賞を楽しみたいと思っている」という方はこのエントリーを読まないようお気をつけ下さい。僕なんかの駄文のせいで名作の輝きが失われたら悔しくて死んでも死にきれない。興味あるけど多分観ないわ、という方はお読みになっても大丈夫です。多分。

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「ライフ・イズ・ビューティフル」「善き人のためのソナタ」は、僕が感動した映画を問われておそらくワンツーフィニッシュするであろう作品ですが、奇しくも共通するテーマを扱っています。それは、不当に行われる支配・監視(前者は戦中のナチス、後者は冷戦期)の中で生きる人間がフィーチャーされている点です。とにもかくにも、非人道的な行いのなかで逆説的に光る人間の美しさに僕は弱いんだと思います。ということに気付いてからというもの自分がちょっと怖くなりました。

浅学ながら各作品について感想を書きたいので書く。

 

「ライフ・イズ・ビューティフル」

『ライフ・イズ・ビューティフル』(原題:La vita è bella、英題:Life Is Beautiful)は、1997年のイタリア映画。ロベルト・ベニーニ監督・脚本・主演作品。第二次世界大戦下のユダヤ人迫害(ホロコースト)を、ユダヤ系イタリア人の親子の視点から描いた作品である。  カンヌ国際映画祭で審査員グランプリを受賞。第71回米国アカデミー賞で作品賞ほか7部門にノミネートされ、そのうち、主演男優賞、作曲賞、外国語映画賞を受賞した。また、トロント国際映画祭の観客賞やセザール賞の外国映画賞も受賞している。

wikipediaより基本情報を引用。ロベルト・ベニーニはコメディアンで、持ち前のひょうきんな身のこなしがこの作品の肝になっています。彼が監督・脚本・主演をこなした上で、主人公の妻を演じるニコレッタ・ブラスキはベニーニの本当の妻でもあり、その辺のこだわりが自然体の演技を可能にしているのかもしれません。

あらすじはこちらで御覧ください。wikipediaは現代人第3の脳です(言わずもがな第2の脳はevernote)。映画は2時間、前半後半の2パートに分かれています。前半は主人公グイドが面白おかしく生活を送りながらドーラと出会い、結婚して子供を授かるまでを描いたラブコメディ。後半は、グイド一家がユダヤ人であることを理由に強制労働収容所に連行され、息子ジョズエに心配をかけないように嘘をつき続けて日々を過ごすグイドが描かれます。

この構成が実に見事で、やり過ぎとも言える前半の明るさ・ギャグシーンが後半への布石として機能する。後半で強制労働収容所に入れられたといっても映画自体の(表面的な)雰囲気は重いものではなく、「これは1000点取った人がご褒美をもらえるゲームなんだ、とても楽しいよ」とジョズエに嘘を語るグイドは一貫して明るさを保っています。子供や老人はシャワーを浴びるという名目で毒ガスを吸わされて殺されていく(その中には、映画冒頭からグイドを見守ってきた叔父も含まれていた)なかで、ジョズエを徹底して隠し、守り続けるグイドには愛が溢れている。

何よりも、戦争が終結し、ああ皆生きている、もうすぐ解放される、と観客が少し安堵するシーンで、妻ドーラを探しに勝手な行動を取ったグイドが軍人に銃をつきつけられる場面。あと一分で自分は「徹底的に」「完全に」殺されるのだと悟りながらも、ジョズエの前を歩かされるときにはコミカルな挙動を崩しません。 そして観客の願いも届かず、グイドは殺されます。この時にその情景を描かない工夫が凄い。物陰に連れて行かれ、どうなるんだ、と思わせておいて間髪入れずに響く銃声。

ここまで来てようやく、この映画を観ている我々はこの作品の主題をあますところなく理解し、グイドの深い愛に胸を打たれることになる。その後の諸々の伏線回収(僕はこの言葉が嫌いだけれど)も完璧で、その完成度に感嘆するばかり。

こんなに泣いてしまうか、というくらいに泣いてしまった映画でした。こいつぁ凄い。

個人的には、良い帽子を見つけるたびに勝手に被ってしまうグイドのシーンが好きです。

たまに、「ギャグシーン扱いされているだけで、グイドは人のものを盗んだり、一度出した料理を他の客に回したり、ひどい自己中心野郎だ。こんな映画は糞だ。」などと仰る方がいるけれど、そういう人にもし今度会ったら優しく頭をなでて「よしよし。」と言ってあげたい。

 

 「善き人のためのソナタ」

 『善き人のためのソナタ』(独題: Das Leben der Anderen, 英題: The Lives of Others)は、2006年のドイツ映画。 東ドイツのシュタージのエージェントを主人公にしたドラマで、当時の東ドイツが置かれていた監視社会の実像を克明に描いている。第79回アカデミー賞外国語映画賞を獲得した。

 同様にwikipedia。あらすじも簡潔なので引用します。

1984年の東ベルリン。国家保安省(シュタージ) の局員ヴィースラー大尉は国家に忠誠を誓っていた。ある日彼は、反体制の疑いのある劇作家ドライマンとその同棲相手の舞台女優クリスタを監視するよう命じられる。さっそくドライマンのアパートには盗聴器が仕掛けられ、ヴィースラーは徹底した監視を開始する。しかし、聴こえてくる彼らの世界にヴィースラーは 次第に共鳴していく。そして、ドライマンが弾いたピアノソナタを耳にした時、ヴィースラーの心は激しく揺さぶられる。

 という話です。この映画が公開された2006年、僕はまだ中学生でした。とある英語教師が映画ライターも兼任しているイロモノで、或る日の授業でこの映画を観せてくれたのが出会いだった(のちにキック・アスなども観させられた)。馬鹿ガキなりに「なんやこれ…この映画すげー綺麗やんけ…」と感じた僕は、その後歳を重ねるごとに度々再鑑賞してきたのでした。

主人公ヴィースラーは冷酷な局員で、劇作家ドライマンを盗聴・監視し始めた頃も感情を一切見せずに淡々と全てを記録していく。しかしドライマンの生活を全て聞き、恋人との会話を聞き、ピアノ・ソナタを耳にして以来、ヴィースラーは自分の職務に疑問を抱く。その期間には、ドライマンの恋人クリスタが党の大臣の愛人であること、それらの情報を使って自分が出世することのみを考える局員の姿などがありました。これらが重なって、社会主義を厚く信奉していたはずのヴィースラーは自らの立場に揺らぎを覚えるようになります。

ドライマンを局の計画から救い出すことを決意したヴィースラーは、虚偽の報告書を作成する、ドライマンは危険思想を持たないと結論付ける、ドライマンが活動家であることの証拠となるタイプライターを捜査の前に隠す、など大胆な行動を取っていく。

 

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この映画の白眉はなんといっても終盤のドラマ展開。監視対象をかばったことが発覚したヴィースラーは、ひたすら封筒を開けるだけという拷問に近い閑職に飛ばされても顔色一つ変えません。一方で、ベルリンの壁が崩壊したのちにドライマンは自らが何者かに救われたことに気づき、秘密警察の資料を調べることに。そこで彼は、自分の生活全てを監視していたヴィースラー(実際にはドライマンは彼の名前を知らず、HGW XX7というコードネームと顔写真のみを探り当てます)が己を犠牲にして自分をかばったことを悟ります。ドライマンは、東西ドイツ対立の中でのそうした体験を本として執筆し、その最後のページに「HGW XX7に捧ぐ」と記しました。

その頃、かつて秘密警察として人々を尋問していた頃とは打って変わって、ポストに郵便物を投函する仕事をしていたヴィースラーは、本屋でドライマンの本を見つけて驚きまながらも、「善き人のためのソナタ」と題されたその本を購入する。そして奇しくも、ヴィースラーを探していたドライマンはその姿を目撃するものの結局言葉をかけることはせず、その姿を見守るのみ。

こういった美しいラストシーンですが、「善き人のためのソナタ」を購入した時のヴィースラーと本屋店員の会話が印象に残り続けます。

「ギフト用の包装をいたしますか?」

「要らない。これは私のための本なのだ」

この台詞を言うヴィースラーは、閑職に飛ばされてからの苦労を滲ませながら、それでも良心に従って行動したことは正しかったのだ、という表情を浮かべていました。

 

ちなみに主演のウルリッヒ・ミューエは東ドイツの生まれで、実際にドイツ国家人民軍としてベルリンの壁警備隊の一員であったらしい。その辺もこの難しい役柄にリアリティを与えているのかもしれません。

 

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両作品とも主演俳優の素晴らしい演技が印象的ですが、違いを述べるとするならば、「ライフ・イズ・ ビューティフル」では、グイドの優しさそのものがストーリーを牽引しつつ、同時に映画としての細かい演出の完成度によって物語が生き生きと輝いているのに対して、「善き人のためのソナタ」ではストーリー自体の美しさ、そ して群像劇的な仕上がりの中での各キャラクターの表情がなんというか、憂いを帯びながら強い意志を感じて、上手く言えないけど、すげー良い…!、という感じです。

 

映画素人が傑作映画の感想書くのって大変だ。とにかく観てください。

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